「この道具は、貴方の生活を1ミリも便利にしません。ただ、貴方を『人間』に戻すだけです。」
「正解」を叩き出すAIはただの奴隷に過ぎません。私たちが本当に守るべきは、二度と同じ瞬間を再現できない、自分でも制御不能な『バグ』の方です。 だからこそ、私はこの「監獄」を選びました。ミドリの「1日1ページ」日記。
使うのは、万年筆ではなく鉛筆です。 自分の身を削りながら、二度と戻らない今日という「事故」を紙に押し付ける。書き損じた線の歪みも、消しゴムで消した跡に残る筆圧の記憶も、すべてはAIが叩き出す1万回の正解よりも、ずっと不純で、ずっと価値がある。
あえて手書きで日記を書く理由
手書きには魂が宿ります。筆致からその時の感情が分かるのです。 力強い筆致。弱い筆致。それらによって、当時の気分が鮮明に呼び起こされる。それはデジタルには決して真似できない、手書きだけの魅力です。
また、文字を打ち込むよりも、自らの手を動かす方が脳が活性化するとも言われています。何より、自分の手を動かすという行為そのものが、効率に支配されたデジタル社会に対する一つの「反逆」なのです。
空白という名の、もう一つの記録
日記を毎日書くことは大変です。一日書き忘れることも多々あるでしょう。ですが、それも含めての日記です。 真っ白なページを前にしたとき、「書けなかった」と自分を責める必要はありません。
その空白にこそ、目を向けてください。 言葉にできなかった絶望、あるいは書くことさえ忘れるほど何かに没頭していた時間。何も刻まれなかった「空白」は、決して欠陥ではなく、貴女が生きたリアルな手触りそのものです。
効率を求める貴方の人生は、ベルトラッキの贋作と何が違うのでしょうか。綺麗に埋め尽くされた予定表よりも、不格好な鉛筆の跡と、沈黙のような空白が混じり合うこの一冊の方が、ずっと「人間」に近い。
便利を求めるなら、アプリを使ってください。不自由を愛し、書けない日々の空白さえも抱きしめる覚悟がある方だけ、この監獄の門を叩いてください。
